2019年10月3日木曜日

業界で話題になっているあの件について私も一言。

業界で今ザワついているあの件について私からも一言。

ちょっと話は横道に逸れるところから入りますが....。
数年前、海外からの依頼でしばらくの間チェッカーの仕事も時々受注することもあったのですが、「え、これって本当に日本人が訳したの?」と思えるほどひどい訳文が送られてくることが頻繁にありました。そういう時、「ああ、ついに英日翻訳も非日本語ネイティブまで駆り出されるほど人手が足りないのかな」と漠然と思っていました。


ある時、ある分野のかなり専門的な内容の文章のチェックで、その中の一部がめちゃくちゃ構文の取りづらい難解な英文だったのですが、翻訳者からチェッカーへの申し送りで「ここちょっとわかりませんでした」と空白で送られてきたことがあり、唖然としました。

結局その一次翻訳者から「分からないのでチェッカーさんよろしく」と丸投げされた文(一か所ではありませんでした)を一から訳すために長時間かかり、見積もっていた時間を大幅に上回り、その後の仕事のスケジュールにも大いに響きました。

そんなこともあってその会社からはチェックの仕事が来ても断るようになり、次第に「チェックの仕事」そのものを避けるようになりました。

今にして思えばああいう一次翻訳者は(日本語表現がうまくない)「非日本語ネイティブ」だったのではなく、(原文の英語を解釈しきれない)「実力不足の日本人翻訳者」だったのかなと思います。

数年前の話ですからその時の一次翻訳者が今回の関係者である可能性は低いと思いますが、その頃から「トライアルをすり抜けて業界に紛れ込んでしまった人たち」というのは少なからず発生している印象です。

海外のエージェントの中には日本語の品質をしっかり見極めることのできる人が社内にいない(=外注している)場合も考えられますから、今回のケースのように「盛った」CVを送ってこられたら「日本人翻訳者!喉から手が出るほど欲しい」となってしまい、上に挙げた例のように分からない部分は「分かりません」と言って平気で空欄にして出せるような人がトライアルに受かってしまうのかもしれないと思いました。

今、日本人翻訳者は世界的に不足しているようで、私のところにも海外からは特に、日々続々と仕事のオファーが来ています。「手が空いていたらやりたいなあ」という仕事も時々ありますが、既存の顧客からの仕事で手いっぱいで、なかなか新規の案件には手が伸ばせません。知り合いでできる人がいれば紹介してつなぎたいと思うこともあります。

そんな情勢の今、「翻訳には英語力は不要!」などといって、本当に難しい英文が来たら平気で「ここ分かりませんでした」と言って放り出す可能性がある人を続々と送り込んでいいのでしょうか。「英語力が高くなくてもできる」と思って仕事を引き受けている人たちなのですから、原文を解釈しきれず「分からない箇所」が出てくる可能性は大いにあります。

本当の翻訳者であれば普通、自分で考えてネットで調べても分からなければ、図書館に行き、ホコリをかぶった文献を司書さんに書庫から出してきてもらって借りて帰り、何万円もする辞書も自腹で買い、家にある文法書を新旧何冊も当たり、参考になりそうな本があれば海外からでも取り寄せ、「背景知識」「原文解釈(文法)」の両面からそれこそ「分かるまで」「ピンとくるまで」考え抜きます。

学校の英文解釈の授業じゃないのですから「分かりませんでした」で白紙で出せるなんてとんでもないことです。

難しいところはカットして分かるところだけ訳した翻訳に何の意味があるのでしょうか。
そういう事態を引き起こす可能性が大いにあるわけで、「英語力はないけど検索力は高いです」という人に嬉々として大勢乗り込んでこられたら業界は大混乱です。

諸先輩方は何もプライドを傷つけられたからという理由で怒っているのではないと思います。実害があるからです。

現在TOEICの点数が低いからと言って、翻訳者を目指してはいけないことはもちろんないと思います。「翻訳者になるためにまずはTOEICの勉強をしよう」と問題集を開くのではなく、翻訳の訓練をした方が近道であるとは思います。

でもやっぱり最低限「原文を読んで意味が分かる人」じゃなければ翻訳はできないと思います。「英語を読んでも(難しいところは)さっぱり意味わからないけど翻訳の仕事してみたいです!」って言われたら「え?」って思ってしまいます。

もう業界の諸先輩方がきちんと色々おっしゃってくださっていますので静観していましたが、やっぱり私も言いたくなってしまいました。

特に私の場合は、講師の方と名字が同じですので、ひょっとして関係者かなと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、全く関係ありません。

つくづく今回の出来事で、仕事を依頼する側の方というのは大変だなと思いました。私も後工程の方に「ひどい翻訳だな」と言われないように、ますます精進したいと思います。

お読みいただきありがとうございました。

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