2021年3月10日水曜日

「トランスクリエーション」の高額新講座、森谷式翻訳術(森谷式翻訳カレッジ)がなぜ炎上しているのか

2018年6月に開講されて大いに物議を醸した「在宅翻訳アカデミー」(浅野正憲氏主宰)を運営していた「株式会社REGOLITH」がまた新たな講座を開きました。


かねてより再三お伝えしていますが、現在、同じグループが企画運営、もしくは何らかのつながりがあると思われる問題の講座が下記の5つあります。

  • 在宅翻訳アカデミー|TOEIC500点でもできる|ホームページやマニュアル翻訳|浅野正憲氏 [2020/2/25の記事をご参照ください] (※以前株式会社REGOLITHが運営
  • グローバルトランスレーションアカデミー|中高生の英語力でもできる|特許の日英翻訳|坂口雅志氏 [2021/1/10の記事] (※以前浅野正憲氏の講座で講師をしていた
  • 森谷式翻訳カレッジ(森谷式翻訳術)|高い英語力がなくてもできる|トランスクリエーション|森谷祐二氏 (※現在株式会社REGOLITHが運営
  • 翻訳学校ソエル|英検3級でもできる・女性専用|出版・映像|早瀬莉子氏 [2020/11/7の記事] (※主任講師の佐藤氏は以前浅野正憲氏の講座で講師をしていた
  • 在宅中国語アカデミー(在宅中国語起業)|中国語に自信がない方でもできる|しゅえ氏 [ローズ三浦さんの記事] (※しゅえ氏は以前浅野正憲氏の講座のスタッフだった
これらの講座についてなぜ、翻訳者たちが注意喚起のメッセージをSNS等で次々と発信しているのか。この問題についてご存じなかった方もいらっしゃるかもしれませんので、改めて短めにお伝えします。同じような講座がいくつもあるので、まずはすべての講座に共通して当てはまる点について書きます。(これらについてご存じの方は読み飛ばしてください。)

[一連の翻訳講座の特徴と翻訳者たちが問題だとして声をあげる理由]
  1. 受講料が一般的な翻訳講座と比較して非常に高額であること。
  2. 翻訳という仕事の現状を誤認させるようなイメージ広告を展開していること(「自由な働き方で自分らしいわがままライフスタイル」など)
  3. 翻訳のスキルがスタート地点の能力にかかわらず短期間で習得可能であるかのように誤解させる広告を展開していること。
  4. 募集の仕方に問題があること(LINEステップメールを利用/申し込み期限が迫っているかのように煽る)
  5. サービス内容が告知内容と乖離していること(講師の数が足らず質問への対応が遅いなど)
①受講料が一般的な翻訳講座と比較して非常に高額であること。
 まず、これに関しては、上記すべての講座の料金体系がほぼ同じです。
 セルフプログラム約6万円、通常プログラム約30万円、マンツーマンサポート約50万円の3種類です。

 大手翻訳学校の通学コースなど、教室授業を展開する学校や通信講座で毎回細かな添削をしてくれるコースでは同じような価格帯の講座もありますが、この講座は基本、対面授業はなく、オンラインでの双方向授業も、月に1度など、他の学校と比較して頻度が極端に少ないです。基本的には動画で自習しろ、質問があったらチャットで、という放置スタイルで、これでは高額な授業料に見合っていません。
  
 約6万円のセルフプログラムというのは動画で自習して会員同士の交流用チャットなどに参加する権利が与えられるだけで基本的に講師からのフィードバックはありません。しかし、先に30万円、50万円の高額講座を提示された後にこのセルフプログラムが提示されるので、お得感を持ってしまって申し込んでしまう人たちが後を絶ちません。

②翻訳という仕事の現状を誤認させるようなイメージ広告を展開していること(「自由な働き方で自分らしいわがままライフスタイル」など)

 翻訳者の生活というのはそんなにバラ色のような生活ではありません。売れっ子翻訳者は常に締め切りに追われてボロボロになりながら仕事をしていますし、駆け出し翻訳者は仕事量に波があり、まともに暮らせる月があるかと思えば他にバイトをしなければならないかと心配になるほど仕事がない月もあるような時期もあって、ほとんどの翻訳者は安定して受注して生計を立てられるようになるまで何年もの下積みのような期間を経ています (もちろんそうでない翻訳者もいると思いますが) 。翻訳講座を受けるだけで人生が180度変わってバラ色のような生活が送れるように煽る広告は誇大広告の可能性があります。

③翻訳のスキルがスタート地点の能力にかかわらず短期間で習得可能であるかのように誤解させる広告を展開していること。

 講座によって違いますが、「TOEIC500点でもできます」「中高生の英語力でもできます」「英検3級でもできます」などと言って、英語力が高くなくても翻訳の仕事ができるかのように誤認させる広告を展開していることが特徴であり、ここが問題です。

 翻訳に語学力が必要であることは当然です。機械翻訳があると言ったって、実際の案件に機械翻訳の使用は禁止であることがほとんどですし、機械翻訳の出力の良し悪しも判断できないようなレベルの人にまともな翻訳は不可能です。実際、件の講座の出現以来、業界には品質の低い翻訳が多く出回る結果となり、フリーランスのチェッカーや翻訳会社の中で編集作業を行っている人たちの大きな負担となっています。

④募集の仕方に問題があること(LINEステップメールを利用/申し込み期限が迫っているかのように煽る)
 「無料講座です」のメッセージに惹かれて軽い気持ちでLINEに登録すると、「申し込み締め切りまであと〇日です!」「あと〇時間です!」などと、高頻度で入会を煽るメッセージが送られてきます。これらはすべてプログラムで自動配信されており、実際に残り数日や数時間で申し込みが締め切られたことはありませんし、最初に謳った募集人数を超えても締め切らず、受講生の数が膨大となり、次で述べるようにサービス品質の低下へとつながっています。

⑤サービス内容が告知内容と乖離していること(講師の数が足らず質問への対応が遅いなど)

 講座の宣伝では「きめ細やかなサポート体制」が謳われていますが、元受講生の方から話を聞くと、チャットの返事は遅く、場合によっては一週間も放置されたことがあるといいます。募集人数を上回ってからも受け付けを止めないため、講師1人当たりが対応できる人数を大幅に超えてしまうという現状のようです。高額な受講料を支払った受講生は細かなサポートを期待しているのに、これでは単なる自習教材であって、内容にガッカリして解約を申し出る人が後を絶たないようです。

 さて、前置きが長くなりましたがここからようやく、今回新しく登場した「森谷式翻訳術」について書きます。まず、講師の森谷祐二氏はこれまで再三炎上してきた浅野正憲氏の「在宅翻訳アカデミー」で学んでいた人物です。


 ご自身は現在アメリカ在住で、英語力に不自由はないようですが、翻訳について学ぼうとしたのはこの講座が最初のようです。それまでにも経歴の中で翻訳の経験はあるようですがすべて人づてに紹介されてその都度必死に取り組んでいかれたようです。

 すでに英語や翻訳の素地はあったのでしょうから、翻訳に興味を持ったのなら他の学校で学べばよかったと思うのですが、よりによって浅野正憲氏の講座に心惹かれて受講してしまいます。自分なりに努力を重ねられた結果だと思いますが、成果が出て月収100万円を達成した受講生としてイニシャルで紹介されていました。


 浅野氏の講座はもともと翻訳力強化より収入アップを目的とする生徒を対象にし、それを売りにする講座ですので、Y.M.さんこと森谷祐二氏はこのころからREGOLITHの運営に目をつけられ始めます。講師への誘いがある前にもたびたび「うちには月収100万円超えた翻訳者もいる」と、浅野氏が自慢していました。浅野氏はまるで自分の手柄のように自慢げに動画で語っていましたが、もともと20代で抽選で米国永住権を獲得して渡米した森谷氏には英語圏での生活を通した英語力の基盤が備わっており、LinkedInの経歴を見ると翻訳作業にも以前から携わっていたようですから厳密な意味で講座のおかげではありません。何かのきっかけにはなったかもしれませんがそれだけだと思います。

 そして2020年8月、浅野氏が体調不良を理由に授業に出られなくなりました。そこでピンチヒッターとして白羽の矢が立ったのが森谷氏です。浅野氏は英語力にも疑問符が付くような講師でしたから、代わって教壇に立った森谷氏の講義の評判は良かったようです。

 これを見た運営は、浅野氏を切って森谷氏と手を組むことを考え始めます。浅野氏との間にどんな経緯があったか分かりませんが、受講生には何の事前説明もなく、突如浅野氏の講座から運営会社REGOLITHが手を引くことが伝えられ(2020年12月)、浅野氏の講座が終了することが案内されます。浅野氏の講座の受講生に対して森谷氏の講座を受けたいならと一般価格に比較しての割引価格が提示されました。浅野氏の講座と森谷氏の講座の両方にお金を払った人は、正確な数は分かりませんがかなりいると見られています。

 森谷氏の講座の売りは「トランスクリエーション」だそうです。もともとは広告業界で使われてきた言葉で、翻訳の「トランスレーション」とクリエイティブを重ねた造語です。簡単に言えば英語のキャッチコピーを見て日本語のキャッチコピーを作成する翻訳分野のひとつなのですが、森谷氏は自分がエンタメ業界での職歴が長かったことを活かしてこれを講座の売りにしようと考えたようです。浅野氏の講座の受講生に対してはこのように案内していました。



 浅野氏の講座で満足に成果が出ず悩んでいた人たちのなかにも、「クリエイティブ要素が入る翻訳」と聞いて「これなら今度こそ行けるかもしれない」と考えた人もいたようで、すでに何十万も払っているのに再度の望みを託して森谷氏の講座にお金をつぎ込んでしまいました。気の毒でなりません。
 
 最初にこれを見たときは今度は「高い英語力は必要ありません」のコピーはやめるのかと思っていました。そうなれば森谷氏は浅野氏の元門下生であるということ以外に糾弾する要素はなくなるかもしれないので私は事態を静観しようと当初は思っていました。

 ところが2月中旬。突如REGOLITHによるまたいつもの広告展開が始まりました。




 ああ、やっぱりそう来るのかと、心底がっかりしました。それによって受講対象となる人数は普通の翻訳学校の比ではないだろうと思いますが、英語が苦手な人、現在英語力が低い人に対する翻訳指導には、膨大な時間を要します。「動画を配信しましたからそれを見て自分で勉強してください。分からないことはチャットで聞いて。サポートするから」なんて言われて翻訳できるぐらいなら、そもそもこんな学校に引っかかりません。

 また浅野正憲坂口雅志と同じことをやるのだなと確信しました。森谷氏はTwitterやnoteも開設して翻訳に対する自分の思いを語っています。正直、いいことも書いてありますしその通りだなと思うこともあります。でも、上のような宣伝をする運営会社と手を組んで、翻訳業界のことを何も知らないような人をターゲットにして商売しようとしている人が何を言っても全く心に響きません。

 アメリカ在住の森谷氏がどんな人生を経て、どんな風に翻訳の仕事を獲得するに至ったのか、それを知りたくて受講しようとする人は多いと思いますがちょっと待ってください。森谷氏はずっとアメリカに住んでいたのです。それまでにも翻訳の仕事はしていたのです。それがある日思い立ってアメリカから浅野氏の講座をオンラインで受講したら、数カ月後にものすごく翻訳で稼げるようになって月収が100万を超える月もでるようになった。

 その手法は、浅野正憲氏に習ったんですよ。受講生に、「CVを盛って書くように」と指導していたあの浅野正憲氏に。




 そんな方法を、あなたも知りたいですか?そんなに業界の裏情報を知りたいですか?翻訳者になるための情報をもらえるなら50万円出しても平気ですか?質問のチャットに答えるのが森谷氏以下、全員元浅野正憲の講座から年末に移籍したばかりの講師たちでも?ちなみに、浅野正憲氏の講座の講師も全員、元受講生です。「英語力が高くなくても翻訳できます」という言葉に惹かれて講座に入会して時には不正手段も使って翻訳会社に登録を果たしたはいいがあまり仕事が来ないからそれならば講師にどうですかと誘われて講師になった講師陣から、「サポート」してもらいたいですか?

 これが「全く新しいトランスクリエーション講座」の全貌です。受講しようとしていた方、少しは目がさめましたか?

 なお、森谷氏が自分の媒体で言っているトランスクリエーションの定義と、本当のトランスクリエーションは、全く違います。興味のある方はTwitterで #トランスクリエーション #森谷式翻訳術 で検索してみてください。(こちらの連ツイが分かりやすいのでぜひお読みください。ツイート画像をクリックするとTwitterへジャンプします)

 翻訳者になるまでの道は長いです。でも楽しいです。勉強が楽しいと思うような人でなければ翻訳者になれません。TOEICや英検がさほど関係ないのはその通りです。でも、読解力のベースとなる英語力は外せません。翻訳学習は基本的には自分ひとりでやるものです。時々ペース作りに様々な翻訳講座を受講することはおおいに勉強になります。しかし、しっかりした基盤を作るには「英語力が高くなくてもできる」と宣伝したり、講師が自分の年収ばかりを売りにする講座は候補から外してください。

 しっかりと英語で原文の意味が読み取れて、それを日本語で書くことができるようになること(もしくはその逆)。それができるようになるために必要な学校を探してください。

 私が開設した翻訳者スタートガイドも、もしよければ参考にしてください。
 私でよろしければ業界の裏情報(合法的な範囲で)や仕事の取り方などについても分かる範囲でお伝えしますのでマシュマロまでメッセージください。無料です。

3 件のコメント:

  1. 「ちなみに、浅野正憲氏の講座の講師も全員、元受講生です」というあなたの文章を引用して、私の感想を言わせていただくと、その講座は「ねずみ講」に似ています。つまり、講師も被害者ということになります。被害者が新たな被害者を求めているわけです。「ねずみ講」の最期は破綻です。

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    1. おっしゃる通りですね。ねずみ講に似ていると私も思います。この手法に引っかかった人が今度は自分も引っかける側に回る。きりがありません。しかしおっしゃる通り、こんなしくみは最後には破綻すると思います。

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