2024年3月29日金曜日

キラキラ広告 翻訳詐欺まがい講座のこれまでの型

 キラキラ広告 翻訳詐欺まがい講座のこれまでの型

(全部同じなのでどれかひとつを特定していません) 1) 英語力が低くても(またはゼロでも)翻訳者になれるという広告がバンバン流れ、LINEに誘導される 2) 入会後、キラキラ系の広告塔役講師が会員にオリエン的なことをやる(実際の添削指導はバイトがやる) 3) 当初謳われていた募集人数くらいの入会者のうちは比較的それなりの指導をする(でも金額には見合わないショボい指導) 4) 募集予定人数を超えても締め切らず入会者が膨れ上がる 5) 数十人のはずが数百人規模まで増えているのに講師の増員が追いつかない(慌てて募集するも人材確保できず) 6) 質問の回答も課題の添削も返ってこなくなる 7) 配信動画も遅れがちになる 8) この辺から異変に気付く会員が出始める 9) 不満を言う会員は「ネガティブな発言はしないでください!」と運営からつまみ出される 10) 不審に思った会員たちがインターネットで評判などを調べ始める 11) 私が書いているブログなどに行きつく 12) やっぱり詐欺まがいだったのか!と気づく 13) 私にDM等でコンタクトしてきた人 →救済措置へ案内(今ここ) 1)から13)までのサイクルがだいたい半年ぐらいです。 毎回このパターンです。いつも同じ。

上記のような翻訳詐欺まがい講座の被害に遭ってしまい、返金されないなどのトラブルに見舞われている方は、遠慮なくJAT(日本翻訳者協会)の「詐欺まがい講座対策委員会」までご連絡ください。連絡先メールアドレスは

sagimagai@jat.org

です。

2024年3月8日金曜日

【#AI英語ライター 養成講座】#宇田悦子 疑わしい英語関連講座の見破り方 Vol.2

いったい何匹目のどじょうを狙うつもりなのでしょう。

AIを使えば「英語力不問」で稼げるという講座がまた出てきました。少し前にも「AI翻訳アカデミー」という講座が出現して800人を超える被害がでました。味をしめてまたAIをネタにしてきたようです

今度はAIを使った英語ライティングの講座だそうで

宇田悦子氏による 【AI英語ライター養成講座】です。



現在までに観測されている同講座の広告は以下の2つのページです。

https://aieigowriter.com/aieigo/01/(「無料動画」をエサに [実際はただの宣伝] LINE登録へ誘引するページ)

https://aieigowriter.com/letter/f/pre/#(募集開始までもったいつけて申し込みを煽るページ)

(運営がこれらのページを削除したりURLを変える可能性があります。URLが無効になったらその都度修正する予定ですが、変更についていけない可能性もあるのでご了承ください)


【過去にもあったさぎまがい講座と同じ】

 この講座も、塩貝香織氏のAI翻訳アカデミーと同じく2019年から2020年にかけて問題になった講座と同類の販促業者が後ろで糸を引いているとみられる講座です。

 以前問題になった講座については2020年2月25日火曜日のこちらの記事の記事と2020年11月7日土曜日のこちらの記事の記事をご参照ください。

 私がこのように「同類の業者が広告制作や企画を請け負っている」と考える根拠は次の4つです。

1. 広告ページの特徴がこれまでにもあったさぎまがい講座の広告に酷似している

 ・英語を使用する仕事なのに「英語力不要」もしくは「高い英語力不要」と謳っている

今回の「AI英語ライター養成講座」

塩貝香織氏の「AI翻訳アカデミー」


坂口雅志氏の「グローバルトランスレーションアカデミー」(現在は消滅)
(中高生レベルの英語力を収入に変える魔法、と謳っている)



浅野正憲氏の「在宅翻訳アカデミー」(現在は消滅)
(高い英語力・学歴・高度なパソコンスキル一切不要、と謳っている)

・「定員に達したら締め切る」と謳っているのに実際には締め切らない


(今回の講座はまた募集が始まっていないので確定的なことは言えませんが、これまでの例では定員を締め切っても受講生を受け入れ続けていました。今回もおそらくそうなるでしょう。20人や30人の定員で締め切っていてはこの派手な広告を制作している業者が儲からないからです)

・「無料プログラム」と謳い、LINEに誘導するが実際の手法を無料で教えることはなく、結局高額な有料講座へと誘導する構造になっている

・動画は一度ではすべて見られない。多くが第1回から第4回まで引っ張る

・動画を最後まで見終わると次は「講座代金をなかなか教えない」ページに誘導

・価格のページに飛んでもすぐには申込できない。(「募集開始」までもったいつけて待たせる仕掛け)




 ※これらは情報を小出しにすることにより消費者の「早く申し込みたい」という気持ちを煽る、典型的なプロダクトローンチ手法です。

2.講座の料金が同じ(しかも高い料金を提示して「初日申込特典で」割引になると言っているが実際は常に割引後の値段。いわゆる二重価格表示


3.以前問題になった坂口雅志氏の「グローバルトランストランスレーションアカデミー」と同じ業者がクラウドワークスで女性の似顔絵を発注している。



4. 講座の主宰者本人が書いているとはとても思えない、おかしな日本語が目立つ




【さぎまがい講座の広告のウソとホント】

 この手の講座に騙される人が後を絶たないのは、誇大広告の中にも一部、本当のことがちりばめられているからです。詐欺師は嘘の中に一部本当のことを混ぜる、とはよく聞く話です。

例えば、この宣伝の中の


「元の文章の意味を読み違えていたら正しく翻訳」できない、というのは本当のことです。

技術者などが書く日本語が翻訳者にとって分かりにくいというのはよく言われていることですが、それは当事者同士だけが分かる専門用語などが頻出するからです。このような高度な技術的内容を含むこともある日本語原稿を正確に読み解いて英訳するには、背景知識や日本語の行間まで読み取る読解力が必要であることは事実です。

しかし!



これは永らく翻訳に携わっている英語ネイティブの日英翻訳者に対して大変失礼な発言ですね。英語ネイティブのプロの日英翻訳者は、もちろん日本語の細かなニュアンスを理解して翻訳されています。日本語で伝えたいことのニュアンスをいちばん正しく伝えられるのは日本人だと断言するのは思い上がりだと思います。

 では英語圏の文化をいちばん正しく伝えられるのはイギリス人かアメリカ人だということになりますが、英日翻訳をイギリス人やアメリカ人がやっているでしょうか?

【高い英語力が必要ないというのは嘘です】

一連のさぎまがい講座の最大の訴求ポイントであり最大の嘘は「英語力が必要ない」もしくは「高い英語力は必要ない」と謳っていることです。



 AI時代にAIをうまく使いこなすのは「リサーチスキル」を高めるために必要な素養ですが、たとえAIを使ったとしても一定以上の英語力がなければ翻訳できません(英日・日英どちらにおいてもです)。

 AIの出力には間違いが含まれます。講座では原文をプリエディットしてからAIに翻訳させるという手法を教えるようですが、プリエディットした後にAIに翻訳させたからといって必ず正しい翻訳結果が出力されるとは限りません。もちろん、正しい翻訳結果になることもあります。では、その出力が正しいかどうかは誰が判断するのでしょう?

 宣伝動画では「プロの翻訳者にチェックしてもらえるから安心して取り組める」などと説明されていましたが、講座を卒業した後はどうなるのでしょう?仮に「英語力不要」の謳い文句を信じて本当に英語力ゼロの人が受講した場合、数か月や半年の間、少しばかりAIツールの使い方を習い、その後講師に訳文を数回添削してもらった程度で、AIの出力が正しいかどうかを毎回判断する力は本当に身につくのでしょうか?

 まさか、これから30名どころか100名、200名を超えても応募を締め切らないであろう講座の受講生全員に、卒業後も元受講生らが受注する案件すべての英文を、講師たちが永久にチェックし続けてあげるとでも言うのでしょうか。おそらくそんなことは不可能ですよね

 「英語力不要」と言っても、自分が訳したい分野の日本語原文をAIで英訳し、その英語が正しいか間違っているかを受講時点で判断できない英語力の人は、おそらくこの講座を受講しても無駄になるでしょう。

 AIの出力のどこが間違っていて、それがなぜ間違っていると言えるのかなどという細かい説明はしてくれないことでしょう。してくれたとしても、翻訳技術は一般化できません。今日習ったことが明日出てくるまったく別の原文には応用できないので、その都度自分で考える必要があります。

 また、英語の言い回しにも日本語と同じように「ニュアンス」というものがあります。「間違ってはいないけれど、普通こんな風には言わない」とか、「丁寧だけどやたらと丁寧すぎて滑稽、むしろ慇懃無礼な表現だと感じる」という英語がいくらでも出力されます。

 講座の中ではもしかしたら出てきた英語をDeepLなどで「日本語に逆翻訳して精度を確かめる」などという手法も紹介されるかもしれません(これはあくまで私の想像ですが)。

 ですが、上で言ったような「間違ってはいないが妙な言い回し」も、日本語に翻訳したら問題ない日本語に「うまく翻訳されて」しまいます。変な英語を日本語に訳したらうまい日本語になったからといって、その英語が正しいとは限りません。その文脈に即した表現になっているのかは、英語そのものを読みそのまま理解できる人にしか判断できないのです。

AIに「英語の部分を任せる」ことなどできない

 AIを使わなくても英文を書ける人や、すでに日英翻訳を行っている人はこんな講座のいうことは嘘だと分かるでしょうから、この講座に惹かれる人にとってのポイントは「AIを使えば英語の部分がなんとかなるかもしれない」というところだと思います。

 AIは最近ブームで「AIを使えば英語力がなくても翻訳できるのでは?」と考える人もいるかもしれません。確かに、DeepLやGoogle翻訳に代表される機械翻訳、ChatGPTに代表される生成AIは最近ではかなり精度が上がってきています。

 動画の中で説明されているように、特に日本語から英語への翻訳の場合、省略されている主語を補ったり文脈に大きく依存している文章に説明的な文章を付け加えることで(プリエディットすることで)かなり正確な翻訳が出力される確率は高くなっています。しかし、100パーセント正しいという保証はありません。

 たとえわずかな確率であっても間違いが混入している場合、その間違いは誰が検出するのでしょう?

 だいたい合っていると思われるけれど、もしかしたら間違いが含まれているかもしれませんという成果物を、誰がお金を出して買うのでしょう?

【一般的な翻訳者だってChatGPTくらい知っている】

 それから、動画の中では私たちのような職業翻訳者があたかもAIなど触ったこともないような古い人間のように語られていますが、私たちだってChatGPTくらい触ったことはあります。仕事で提供された原文をそのままChatGPTに入力することは(データ流出の可能性という観点から)守秘義務に抵触する可能性があるので実際の業務には使わない人がほとんどだ、というだけです。

 私も辞書に載っていない特殊な言い回しについて調べるときや、初めて扱う分野の背景情報を収集したいときにChatGPTを使うことはあります。原文の翻訳作業そのものではなく、リサーチに生成AIを使っている翻訳者は少なくないと思います。

 この手の講座の宣伝ページを制作しているライターに言いたいのですが、私たち翻訳者を古臭いアナログ人間みたいに言うの、いい加減にやめてもらえます?

この講座への入会を検討している方へ。

 AIを使えば比較的精度の高い英文が生成されるのは確かですが、実際に契約したクライアントからAIの使用を禁止されたらどうしますか

 また、ChatGPTは使用者が多いとき、たびたびサービス停止になります。例えばこの記事を書いている3月8日時点でChatGPTがブラウザから使えないという症状が出ています。Xを見ると同じ症状が出ている人も多いようです。便りにしているChatGPTが使えないときに明日までに納品しなければならない仕事があったらどうしますか

 AIを使って生成した英文が合っているか間違っているか、その検証については、講座を卒業した後はどうするつもりですか?短期間でそこまでの英語力を養成できると本当に考えていますか?

 


この「特定商取引法に基づく表記」にも書かれている通り、原則的には返金しないスタンスですから返金交渉の際は精神的にもかなり追い込まれることになります。

よく考えてから決めてください。

2024年2月16日金曜日

それでもまだAI翻訳アカデミーを受講すれば英語力ゼロでも翻訳で稼げるのではないかという希望が捨てられない方へ

それでもまだAI翻訳アカデミーを受講すれば英語力ゼロでも翻訳で稼げるのではないかという希望が捨てられない方へ

というタイトルでnote記事を書きました。業界で騒がれている講座の、どこがどうまずいのかを解説しました。よろしければお読みください。


https://note.com/officeykr/n/nd53a198b2116


2023年12月18日月曜日

【詐欺まがい講座に対する返金交渉を迷われている方へ】

 【詐欺まがい講座に対する返金交渉を迷われている方へ】

こんな講座に引っかかってしまった自分が情けない、自業自得だ、と自分を責める気持ちは分かりますが、泣き寝入りが一番の悪手です。泣き寝入りする人が多ければ多いほど、彼らの手元には多額の資金が残り、3年前に続いて今回も成功体験として彼らの実績に刻まれるでしょう。そしてまた、数年後みんなが忘れたころに同じ手を使うのです。今、ここで叩いて全員が返金を勝ち取り、資金を根元から絶つ必要があります。

委員に迷惑をかけるかもと遠慮する必要はありません。みんなで知恵を出し合って返金交渉しましょう。

日本翻訳者協会・詐欺まがい講座対策委員会までご連絡ください。
(参照) 2023年12月11日に出た業界4団体による共同声明


連絡先:sagimagai@jat.org


2023年9月15日金曜日

【AI翻訳アカデミー】#塩貝香織 疑わしい翻訳講座の見破り方



 また出てきました。AIに翻訳を任せれば「英語力不問」で翻訳家になれるという講座です。
 
 実はこの講座は、2019年から2020年にかけて問題になった講座と同じ販促業者が後ろで糸を引いている講座です。以前問題になった講座については2020年2月25日火曜日のこちらの記事の記事と2020年11月7日土曜日のこちらの記事の記事をご参照ください。

「英語力ゼロでも即収入」は誇大広告|機械翻訳の訳文を修正する仕事は日本語だけ見て直すのではない

「英語力ゼロでも即収入」という広告に惹かれて、機械翻訳の訳文を修正する仕事に応募したいと考えた人も多いでしょう。しかし、この仕事(機械翻訳の後編集、いわゆるポストエディット)は日本語だけを見て手直しする作業ではありません。英語と日本語を照らし合わせながら間違って訳されているところはないかを「クロスチェック」する作業です。

 機械翻訳は完璧ではなく、文法や固有名詞、意味など(例:否定と肯定が逆になるなど)に誤りがあることがあります。そのため、訳文を修正するには、原文の英語を理解して、正しく修正する必要があります。英語力がないと、原文や訳文の意味が分からなかったり、間違った修正をしたりする恐れがあります。また、この仕事は納期や品質に厳しい要求があることも多く、簡単に収入を得られるというものではありません。機械翻訳の訳文を修正する仕事は、英語力や翻訳スキルが必要な専門的な仕事です。誇大広告に騙されないように注意したいものです。


疑わしい翻訳講座の見破り方

以下は、これまでに出てきては消えた、複数の疑わしい翻訳講座の主な特徴です

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・英語力が低くても(ゼロでも)翻訳者になれると誇大広告している

お試しレッスンや授業見学の類が一切ない。あるのは宣伝動画内のダミーの受講生の体験談だけ

・LINEのLステップというしくみを使い、申し込みページを開いた瞬間に「あと●日〇時間△分■秒と、カウントダウンが始まる(焦って契約させようとする)

・高額な2種類の講座を勧めた後(約50万円、約30万円)、サポートなしの動画教材(約7~8万円)を売り出し始める

・人数限定のはずなのに、当初の予定人数を超えてもいつまでも締め切らず、参加者の数が膨れ上がっている

・結果、少ない人数で大量の受講生の相手をしているのでサービスの質が落ち、質問しても課題を出しても全然返事が来ない

・資料請求のページもなく、講師のプロフィールが一人分しかない(一人で対応できない数の受講生を受け入れている)

・教材の詳しい内容が書かれていない

・翻訳者になった場合のメリットばかりを強調する(デメリットについては言わない)

・翻訳の基本的な知識や技術を教えずに、経歴詐称、もしくは詐称スレスレの「実績の書き方」を勧める

・翻訳は簡単にできるのだとやたら強調する

・翻訳でいくら稼げると、やたらと金額の話ばかり強調する

・ランディングページの一部に札束、または一万円札の画像が入っている(new!)

・講師が自分の年収の話をやたらと自慢する

・講師が過去の実績を実際のクライアントの実名を出して語っている(秘密保持契約違反の可能性)

契約書や教材を交付しない、または不備がある

・「特定商取引法に基づく表記」欄に「本商品に示された表現や再現性には個人差があり、必ずしも利益や効果を保証したものではございません」という一文、またはそれに類似した文言が入っている。

特定商取引法に基づく表記」欄に「インターネットによる通信販売では、特定商取引法に定められたクーリングオフの対象外となります」という一文が入っている

・返金や解約に応じない、または返金条件が異様に(常識の範囲を超えて)厳しい

・講座の中の様子を外部に漏洩した場合、異様に高額の違約金(受講料以上の金額であるなど)が課せられる(違約金の合理性については弁護士などに法律相談してください)

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いかがでしたか?あなたが気になっている講座の特徴にいくつ当てはまりましたか?


AIは言語を「理解」していない

 でも、「AIを使えば英語力がなくても翻訳できるのでは?」と考える人もいるかもしれません。無料動画(③)で講師がこのように述べていますので、そこに惹かれた人も多いと思います。しかし、これは事実ではありません。



AI(人工知能)は原文を「理解」していません。過去に読み込んだ大量のコーパス(対訳データ)から近似値をはじき出しているだけです。運が良ければ高い精度の訳文のように見える結果が出ますが、そうでないときは「もっともらしい嘘(ハルシネーション)」を吐き出すこともあります。



AI、機械翻訳の誤りは「ぎこちなさ」だけではない

 なぜ、AIに翻訳を任せてもその修正作業をする人間に語学力が必要なのか、説明しないと納得できない人もいらっしゃると思いますのでお話しします。

  AIや機械翻訳の品質を評価する際に、大きく分けて「流暢性」と「正確性」という2つの評価軸があります(実際には他にも評価軸はありますがここでは省略します)。この2つを介して評価すると、訳文には以下の4パターンが考えられます。

①表現はぎこちないが内容は正確に訳されている(流暢性=×、正確性=〇)

②表現は滑らかで読みやすいが内容に誤りがある(流暢性=〇、正確性=×)

③表現もぎこちないし内容自体にも誤りがある(流暢性=×、正確性=×)

④表現も滑らかで読みやすく、内容も正しく訳されている(流暢性=〇、正確性=〇)

 翻訳のこと、AIのこと、機械翻訳の現在の精度について詳しく知らない一般の人々のなかには、「機械翻訳がここまで進んだ!」「効率が上がった!」という記事や投稿を目にして、①のような訳文を手直しすればいいと勘違いしている人が多いようです。

 つまり、AIの吐き出す訳文は多少ぎこちないが、人間がちょっと手を入れれば英語が分からない人でも正しく修正できるレベルだと勘違いしている人もいるということです。しかし、これは誤りです。実際にはそこまで楽な作業ではありません。

 確かに、分野によってはそのレベルに近いものも出てきていますが、実際の汎用エンジンの機械翻訳の現在の精度は②や③のレベルのものがまだまだ多い印象です。日本語が流暢であるばかりに意味が違っていることが見過ごされている「隠れ誤訳」が多く散見されます。実はこういった誤訳こそが重大なのですが、これに気付くには当然のことながら原文を読んで理解するだけの語学力が求められます。

 多少の誤りであれば全体の意味に大きく影響を及ぼさないケースもあると言う人もいるかもしれませんが、中には肯定と否定が逆になっている、構文の係り受けの解釈ミスで全く違う意味になっているなどの重要な間違いが含まれているケースもあります。

 機械翻訳の後編集、いわゆるポストエディット(MTPE)という仕事では、出力された訳文の正確性は保証されていないため、原文と訳文をしっかり照らし合わせて点検するクロスチェックの作業が必須です。

 上であげた①~③のパターンのどれか分からない、合っているか間違っているかも分からない訳文を、④のレベルにまで仕上げることを要求されているのがポストエディターの仕事です(「AI翻訳家」などという珍妙な職業名は少なくとも私はこれまでに聞いたことがありません)。

 興味を惹かれるのは理解できます。英語力がなくてもできるかもしれない、やってみなくちゃ分からないじゃないか、という気持ちは分からなくはありません。しかし、一度振り込んでしまったらお金を取り返すのは本当に大変です。50万円というお金は決して安いお金ではありません。それでもこの大博打に賭けてみたいという方、止めはしません。結果的にお金を稼ぐことができなくても構わないというなら仕方ありません。そのお金は戻ってこない覚悟で、申し込んでください。

 この通り、鬼のように厳しい返金条件ですから、ほぼ返ってこないと見て間違いないでしょう。


 ※広告の内容と実際のサービスの中身が違う「景品表示法違反」、事実と違うことを伝えられて錯誤状態で契約させられた「消費者契約法に該当する事例」等で契約解除、返金交渉をしたいという方は相談に乗ります。こちらからご連絡ください。

 2023/12/14追記: 2023年12月11日(月)に翻訳関連4団体から注意喚起が出ました。日本翻訳者協会(JAT)では被害者の方々の相談窓口として「詐欺まがい講座対策委員会」が設立されました。私も委員の一員として相談受付に携わっています。JAT会員・非会員にかかわらず無料で相談できます。返金の相談など、詳しくはsagimagai@jat.orgまでメールでご連絡ください。

2024/01/06追記:上記12/11の通訳翻訳4団体声明(https://bit.ly/46UGOt9)が出た後は相談者の数も増えており、JAT会員で構成する対策委員会が運営するグループでは活発なディスカッションが行われています。返金までの具体的な行動の方法など、有意義な助言を行っています。被害に遭われた方はぜひご連絡ください。

2023年7月7日金曜日

新ブログページ「翻訳個人事業主の仕事 Season 2」へ引っ越しします。

 2017年に開始したブログも、ここ最近では更新頻度も減り、話題もあちらこちらへ飛んでしまっているので、1度投稿の種類によって自分のもっている媒体を整理したいと思うようになりました。

 このブログは当初、「翻訳の仕事を始める人のために、翻訳回りの庶務的なことをまとめたページにしたい」という思いで始めたものですが、このブログの他にも翻訳の仕事についてまとめた「翻訳者スタートガイド.net」を立ち上げたり、Kindle本を出版したり、翻訳の仕事の探し方情報に特化したnoteアカウントを作ったりなどしてきたので、今後、ブログでは「純粋に自分が翻訳者として考えていることを書く場所にしたい」という思いが強くなりました。

 新しいブログのURLはこちらです。始めるにあたってどういうコンセプトでいきたいのか、少しですが書いていますので、よほどお時間があるようであればご覧ください。(笑)

 ただ、古くなった記事も読み返せば「当時はそういう状況だったのだな」と分かるアーカイブ資料でもありますし、部分的には役に立つ場合もあるかもしれないので、こちらのブログはこのまま置いておきます。

 それでは新旧ブログをどうぞよろしくお願い致します!

2023年5月18日木曜日

断言しない

 これまでTwitterやこのブログで翻訳者の手にまだ残る仕事がある、と言うと

一部の人から
・「業界の保身に聞こえる」
・「年配で(過去に)儲かりやすかった人が翻訳の価値を謳うことが多い」
・「機械翻訳はかなり進化している。自分の分野での進化を確かめてみては」

...のコメントを頂戴してきました(エアリプの場合もあり)。

 自分の働く業界を守っていったい何が悪いのかと思いますが、産業革命の時のラッダイト運動(機械打ちこわし運動)のように思われているのではないか、つまり自分たちの雇用を守るために機械翻訳やAIの進化を邪魔しているのではないかと考える人たちが、「翻訳者たちが『何とかしなければ』と声をあげること」自体を破壊的な行為とみなしているということでもあるのではないか、と思います。

ですから翻訳者の仕事は残ります、と「断言」してしまうと、

「(こんなに精度があがったのに翻訳者ごときが)まだAIのことをディスっているのか!」と怒る人が一定数いるように感じられるので、未来のことについて何事も断言できないということを肝に銘じる必要があるかもしれないと思いました。

ですから、今後は例外的な場合を除いて常に「...可能性がある」という言い方にしようと現時点では思っています。

・翻訳者の手には機械翻訳、AIの限界に関連してまだ仕事が残される「可能性があります

・少なくともまだ数年は語学に関連した仕事に就ける「可能性があります

と言えば、ただ可能性の話をしているだけなので誰からも文句は出ないのではないかと。

つまりは決めつけない、一般化しない、主語を大きくしない、いつの話をしているのか明確にする(現時点の話であるなら「少なくとも現時点では」と面倒でもいちいち言う)ということですね。

まあ、ものを書かせていただき、どこかの誰かにお読みいただく以上、当然のお作法かもしれないですが、正直、めんどくさいですね。