2020年5月26日火曜日

翻訳メモリ(TM)の重要性

今、翻訳業界では翻訳支援ツールが広く使われていますが、このツールの良い点は、過去に別の翻訳者(自分の場合もあります)が訳したものが一つのデータベースとして一か所にどんどん貯まって財産になるということです。マニュアルや仕様書など、同じ表現が繰り返し出てくるような案件では無駄が省けて非常に便利です。ただし、その翻訳が正しいものである場合に限り。

自分の担当する原文が前にも出てきたものであれば、データベースの中から原文とその訳文がペアで表示されて前の翻訳者の訳文を参照できます。他の翻訳者が訳したものと一部が合致する場合はファジーマッチ、100%一致する場合は100%マッチと言います(他の言い方もあります)。マッチ率が高い箇所はワード単価が低くなり、100%マッチの場合は報酬は(ほとんどの場合)ゼロになります(または1円など大変低い単価)。

この貯まっていったデータのことを翻訳メモリ(Translation Memory:TM)といい、「TMがゴミな件」「TMがゴミ問題」というのは、後から見た翻訳者がお手上げなほどひどい訳がTMに混じっているケースのことを言います。こういうTMに不運にして当たってしまった翻訳者は、自分の職業意識にフタをして無視するか、報酬ゼロでも直すかという二択を迫られます。ほとんどの翻訳者は報酬ゼロでも直すと思われ(いずれにしろその箇所は自分の翻訳結果になってしまうため)、その時の徒労感、虚しさと言ったらないです。(100%マッチの箇所にはロックがかかっていて手を出せない場合もあります)

ここでいう「ゴミ」とは、ちょっと日本語の言い回しが下手なだけで、読む人が読めば分かるんだから許してやれよってレベルの「上手くない翻訳」だと思ったら大間違いです。原文と全く違う意味になってますってレベルのことです。ひどい時は機械翻訳の出力のまま、文章が完結していなくて途中で切れてるなんてこともあります。

そういうゴミみたいな訳でTMを汚しているのは誰なんでしょうか。「英語力が高くなくても翻訳できる」と教えられた特殊翻訳講座の卒業生じゃないんでしょうか。

私や他の現役翻訳者の方々が「英語力が高くなくても翻訳できる」と喧伝する翻訳講座をしつこく批判しているのは、業界内でこうした実害が出てきているからです。もういい加減に、英語が読めない人に翻訳の仕事を勧めるのはやめていただきたい。

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