気をつければ防げる「凡ミス」
翻訳のミスには昨日お話した「訳抜け」の他に、いわゆる「凡ミス」、つまり気をつけていれば防げる小さなミスもあります。
・数字のミス
・句読点のミス
・ですます調、である調の不統一
・固有名詞のミス
私は2015年に始めた行った出版翻訳で、なぜか数字のミスを多発してしまいました。何度も推敲したはずなのに、数字を読み間違えており、担当コーディネーターに多数、赤を入れられ、本当に申し訳ないことをしました。
集中力の途切れによる、凡ミスですが、新人翻訳者に多いとのことです。
ある翻訳会社のトライアルで、1996年のアメリカ映画
"Independence Day"の表記を、邦画のタイトル通りに『インデペンデンス・デイ』としなかった応募者は全員不採用になったという話を、何かの本で読んだことがあります。
これはきちんと調べものをしなかったことによって発生したミスで、この手のミスは、多発すると「この翻訳者は調べものに手を抜くタイプだ」と思われてしまうので要注意です。
原文読解力の根幹にかかわる「誤訳」
それに対して、英語を正しく読めていない、ということに起因する「読解力の根幹にかかわる誤訳」には、具体的な防止策は「おそらくない」と言っても良いと思います。
英文法の本をまるごと一冊復習するぐらいの勉強をしないと、「誤訳ゼロ」にはできないと思いますが、やはり一番頼りになるのは自分の「勘」で、
なんか変だなと思ったらどこかが間違っている
という感覚を信じることだと思います。
特に、「さらっと読むと日本語として読めてしまう」という訳は危険です。
「で、結局どういう意味なの?」と疑問を持ったときに、説明できない、ということは、原文がしっかり読み取られていない可能性があります。
以前、通っていた学校であるビジネス書がテストの課題になったことがありました。
その本の原文に
"Walk the talk."
という表現が出てきたのですが、ある翻訳書では「歩み寄り、語りかける」と訳されていました。
私はこの訳に対して、直観的に「どうも変だ」と思ったのです。
「歩みより、語りかける」なら、どちらも動詞であるので"walk up to and talk" あるいは "walk and talk" のはずです。
しかし、上の原文は"talk" に"the" がついているので"talk"は名詞、しかもwalkの目的語であるはずです。
つまり文の構造は「talkをwalkする」でなければならないはずなのです。
しかし、「歩みより、語りかける」という日本語が妙に文脈にマッチしてしまっていたために、その部分に対して私と同じように「なんか変だ」と指摘したクラスメートはいませんでした。
結局、「私の考え過ぎなのかな」と思ってしまい、そのまま解決しないでテストに臨んだところ、その部分がテストに出題されたのです。クラスのほとんどの人が翻訳書を読んで準備していたので、訳書にあった表現、「歩みより、語りかける」を使ったところ、全員不正解になりました。
正解は、
「言ったことを実行する」
「言った通りにする」「有言実行する」
という意味でした。
今は英辞郎にもこの表現は載っているので誤訳する人はいないと思いますが、私がこの"walk(他動詞)"の意味に悩んだ当時は、この表現は辞書には出ていませんでした。
walkには「歩く」(自動詞)という意味の他に
・「~を歩かせる」という意味があります。
「トークを歩かせる」ということはつまり、「自分の口から出たトークの内容を、実際に動かす」→「言ったことを形にする」→「有言実行する」ということになるのです。
この解釈をテスト用紙の返却の際に講師から説明されて、ようやく「ピースがはまった」と感じたことを今でも覚えています。
「違和感」が残っている時は「何かが間違っている」という感覚は、この時初めて実感しました。
よく知っている単語こそ要注意、ということは、よくあります。
外国語の勉強はいくら続けていても、完全にマスターする日が来ることなどあり得ません。「何かおかしい」という感覚を大切にすることで、少しでも誤訳を減らしていければ、と思っています。
2017年9月26日火曜日
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