「訳抜け」というのは、原文にある内容が訳文で抜け落ちていることです。
訳抜けには様々な理由があると思いますが、私の場合を例に挙げて言うと、訳抜けが発生しやすい箇所は次の2つです。
1.主部と述部に当たらない修飾部分(抜けていても意味が通ってしまう箇所)
2.関係代名詞などが多く、原文と訳文の単語の順番が大きく違う箇所
ます、1の場合で誤訳が起きやすいのは、「抜けていても気づきにくい」ためです。主語(主部)と述語(述部)は文章の骨格の部分なので、抜けると文章が成り立たないため気づかないで放置されることが少なく、抜けは起きにくいですが、それらを修飾する役割を果たす「形容詞」「副詞」は、抜けていても文章が成り立ってしまうことが多いため、自分の目だけで推敲していても、チェックの目をすり抜けてしまうことがあります。
難しい英語を読んで構造を理解しようとする時、目はまず「主語」はどこまでで、動詞はどこだろうと探します。まず、そこをとらえて文章の構造をとらえてから、修飾している部分を訳してつなげていくという工程が頭の中で発生しています。ですから、一文を全部訳し切るまで、気を抜かずに「書かれていることを全部拾うぞ」という気持ちでいないと、骨格だけとらえたところで安心してしまい、修飾語を抜かしてしまうというミスが発生しやすくなります。
これを防ぐために有効なのが翻訳支援ソフト(TradosやWordfast、Memsourceなど)の使用、またはExcel上で対訳形式に訳文を入力していくことです。これらを使用すると、一文ごと、あるいは任意の箇所で区切って左右に原文を訳文を展開しながら訳出作業を進められます。
左右に原文と訳文を並べながら作業していると、抜けている箇所があるときに気づきやすいです。どちらもできない場合に長い一文を訳す場合は、カラーのマーカーペンで、訳出が終わった箇所は塗りつぶすというやり方もあります。
頭だけで「訳し終わった」と思っていると、抜けている箇所があっても気づくことなく終わってしまいます。手と視覚的な手段を使って、訳し終わっていない箇所を物理的に浮き出させて対処するのが、原始的ですが有効な方法だと思います。
次に、2番目に訳抜けが起きやすいのは、関係代名詞が多い時など、元原稿に出てきた順番通りに頭から訳せない場合で、「ここは残して後ろから訳して前に戻ろう」と思っていて、残しておいたことを忘れてしまうパターンです。
出てきた通りに前から訳せる場合は、訳抜けは起きにくいです。今訳している箇所が自分でも分かっていて作業を進められるからです。関係代名詞などで後ろから大きく前へ戻って訳す場合は、「いま、一時的に訳すのを保留にして残している箇所」を鉛筆で丸く囲んでおくだけで、ずいぶんこのミスが減ります。
また、ごくまれに一文が非常に長い場合、改行部分でなぜか一行飛ばして次の行へつなげても読めてしまう時が時々あります。契約書などに多いですが、これは訳している途中でつじつまが合わないことに気づくので、さすがに分かります。
いずれにしても、訳抜けを防ぐためには、「完成した訳を読んで不自然な箇所がないか」という観点だけで推敲していては不十分ということです。
推敲の際には、「原文を残らず拾っているか」という視点でチェックすることが非常に大切です。
2017年9月25日月曜日
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