分かっている人には本当に分かり切った話をあえてしますが、翻訳者にとって文法の知識は大切です。私はある場所で週1回翻訳を教えているのですが、授業のわりと初期の段階で
・「その訳が正しいと、どうすれば判断できるんですか」
という質問を受けたことがあります。その時は「ほとんどは文脈でそう解釈するけれど、翻訳に正解はないです、自分の知識と経験を総動員してその英文をその意味に解釈した時の訳が自分のベスト訳、つまり正解だと思います」というような答え方をしたのですが、やはりあまりにも漠然としていたようで、生徒さんたちはポカンとしていました。
それ以降、自分の中でその質問に対する正解を模索し続けましたが、「経験的にそれが分かるようになる」という答えしか出てこず、自分の中ではしっくり行っていませんでした。
ところが、ある先生のコラムを読んで、それはひとつには「文法的な知識」なのだ、ということがパズルのピースとして私の中の「しっくりこなかった部分」を埋めてくれました。
成田あゆみ先生のコラム『実務翻訳のあれこれ』
このコラムの中で先生は
「英語力は、1年でも早く「辞書さえあればなんでも読める」というレベルに達したいところです。
具体的には、構文・文法を完璧にすること。英文中にもやもやした部分がなく、すべての単語の役割を説明できるという意味です。
私が見てきた限り、英語の構文・文法の知識をひととおり完成させるには、一般的には、年代の10の位を年におきかえた期間が必要なように思います。
10代なら1年、20代なら2年です。」と書いておられます。
これだ、と思いました。
翻訳者が文法をしっかりと理解できていなければならない理由は、プロを名乗るからには文中で出てくる「すべての単語の役割を説明できる」レベルに達していなければならないからです。
授業の中でも、生徒が訳した「しっくりこない訳」を、「より分かりやすい訳」として、どこかの学校が出したモデル訳やベテランの翻訳者さんの出した訳や、場合によっては自分が訳した例を引きながら細かく解説していきますが、結局のところ、根拠となるのは「文法的な見解」なのです。
「意味が分からない英文」が「こういう意味なんですよ」と言われて「ああそうか!」と理解できるためには、「ある人がそう訳していたから」ではなく、「この語とこの語がこういう役割を果たしているから」だと、完全に分解して説明できるはずなのです。
口語では「文法的にはおかしいですが」という場面も確かにあるのですが、そういった場合でも「ここは慣習的にこの語が省略された形になっている」とか、「語尾と次の単語がリエゾンしてこういう言い方になった」「この部分が倒置になっている」など、すべて解説可能なはずなのです。ここが私のまだまだ講師としての足りない部分、姑息な言い方をすれば「伸び代」(笑)なのだと思いました。
そういう意味ではこのブログももちろん発展途上で、書いていくうちにうまくなるはずだと確信していますので、また時々覗いていただけると幸いです。
いつも文法の解釈に困ったときにだけ辞書のようにして使っている文法書ですが、この機会に改めて最初から読み直していこうと思います。
私の高校時代の恩師が進めてくれた不朽の名作
『総解英文法』(高梨健吉著、美誠社)
今見たらAmazonに新品の在庫はなくすべて中古品の出品になっていますね。2013年に何十年ぶりかで買い直したときにはまだあったのに。
2017年10月5日木曜日
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