2017年10月24日火曜日

カズオ・イシグロさんの小説

ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロさんの"Never let me go"を読んでみたいと思い、英語と日本語でKindle版をダウンロードしました。

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まずは英語で読み始めたのですがなかなか入り込めず、何の話か分からないのでひとまず日本語で、と思い日本語を読み始めようとしたのですがそれでも読み進めず、仕方がないのでまずはキーラ・ナイトレイが出演している(主演はキャリー・マリガン)2010年の映画版を観ました。

それでやっとこの物語の設定がクローン人間と臓器提供の話だと分かり、衝撃的ながらもその展開に引き込まれました。

しかし原作はそのことの説明は初めからあるわけではなく、
"carer"(介護人: 土屋正雄訳)
"doner"(提供者:同)
などという違和感のある言葉が繰り返し出てきて、読み手はそれが何なのか探りながら読み進めなければなりません。

この本の翻訳を手がけた土屋さんは、先に通読して全貌を掴んでから訳し始めたのだと思いますが、原文にある

「何の話なのか分からないまま、それを探りながら進ませる」

という作者の意図以上に情報を盛り込んではならない、ということを意識されており、原作の引き立つ素晴らしい翻訳だと思いました。

「何この話」
「何この話」
と思わせて途中で
「ええっそういうことなの」
と思わせる展開。

翻訳者としては後の展開を知りながらも、目線はそれを知らない読者と同じところに置いて訳す、というのはさぞ骨の折れる仕事だっただろうと思います。

普段私は産業翻訳をする時は馴染みのある内容を訳すことが多いので、原稿をぱっと見渡したらすぐに翻訳にとりかかるのですが、小説の場合はそうはいかないだろうと思い知りました。

この小説の書き出しは主人公のモノローグになっていて、最後まで展開を知らないとあの書き出しをあのように訳すことはできないでしょう。

あの書き出しだからこそ、日本語版の読者は原作と同様に同じタイミングで驚いたり悲しんだりすることができます。

「最初にまず通読してから翻訳し始める」というのは、やはり基本なのかもしれないと思いました。特に小説の場合は。

私も本一冊が一つの物語になっている書籍を訳せる力量のある翻訳者になるには、日本語に近いスピードで英文を読みこなせる速読力がもっと必要だなと思いました。

日々是精進です。

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