第8章: クラウド翻訳と出版翻訳オーディション
8-1 Gengo
「Gengo(ゲンゴ)」や「Conyac(コニャック)」という名前を聞いたことがあるかもしれませんが、この2つはクラウド上で翻訳の依頼と納品が完結するという「クラウド翻訳サービス」です。翻訳者として登録するより、依頼者として利用する人の間での方が、名前が浸透しているかもしれません。
Gengoは2008年に設立されたサービスで、東京に本社がある企業ですが、創業者であるCEOはMatthew Romaineという日本とアメリカのハーフの人です。
Conyacは2009年に株式会社エニドアという日本の会社によって設立された同様のサービスです。クラウドで直接依頼する方法と、別途コーディネーターが間に入って翻訳の受注と納品を請け負う方法と両方扱っています。
GengoとConyacの大きな違いは、Gengoには独自のレベルテストに合格した人しか登録できませんが、Conyacにはレベルテストを受けていない人(Light翻訳にのみ参加可能)も登録しているということです。
Gengoの翻訳は、業界の中でも激安という訳ではありませんが、ある程度以上の翻訳水準は期待できるのに対し、Conyacでは学生や翻訳学習者のような人も登録しているため、簡単な翻訳であれば非常に安価で発注できるという点です。
どちらも設立当初は画期的なサービスだと大変話題になりました。
Gengoの場合、
・まず、依頼者がウェブサイトを通じて翻訳を依頼するとクラウド上の案件ボードに掲示されます。
・任意の言語ペア(英→日、日→英、中→日、日→中など)の試験に合格している翻訳者が案件ボードにアクセスし、案件の内容と締め切り日時を確認して受注ボタンを押し、受注します。
・このように、クラウドを通じ、依頼者と翻訳者だけで翻訳の依頼と受注が成立するので、翻訳会社のようなコーディネーターが介在しません。世界中にいる翻訳者のうち、その時手が空いている人が対応するので、早い時は数時間で納品されます。
・依頼主のメリットはその単価の安さと納品の速さです。品質についても、それなりに難しい試験にパスした翻訳者が担当しているので、ある程度のレベルは保証されています。
・依頼主にとってのデメリットは、毎回同じ翻訳者に訳してもらえるとは限らない点です。一応、お気に入り翻訳者を登録できるシステムもありますが、その翻訳者が毎回案件ボードを覗いているとは限らないため、自分の案件担当してもらえるとは限りません。
・一方、翻訳者にとってのメリットは、自分の好きな時に好きな分量の案件をボードから選んで受注できることです。
・翻訳者にとってのデメリットは、価格が他より安いことですが、数年前に価格引き上げがあったので、今は一般的な水準となっています。
ただ、値上げの時期と呼応するように翻訳案件の数がグッと減ったような気がします。値上げ前は、仕事がいっぱいで翻訳者の数が足りないようで、同じ案件が何日もボードにあるような時期もありました。そうなると依頼者側には「スピード」というメリットがなくなりますので、Gengo運営側もやむなく値上げしたのだと思いますが、価格設定についてはも運営側も厳しいところだと思います。
やはり昔ながらの、コーディネーターが間に入って案件ごとに調整する翻訳会社のスタイルは、クラウド翻訳が台頭してもすたれることはないだろうと思います。
ちなみに私もGengoで英日の試験にパスしており、子どもが赤ちゃんの頃は細切れの時間にGengoの仕事を受注していましたが、最近では固定客の仕事で詰まっているので、あまりGengoの案件ボードを覗くこともなくなってしまいました。
しかし、これから仕事を始めたいという方や、細切れの時間を使って翻訳の仕事をしたい、という方は、Gengoのレベルチェックテストにトライしてみても良いかもしれません。
2017年7月10日月曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
-
詐欺だと警告されている講座を受講してしまう人が後を絶たない (※注: 2020年7月に講座の名称が変更されましたので当記事もタイトルを変更しました) 浅野正憲氏の翻訳講座「在宅翻訳アカデミー」「在宅翻訳起業」「翻訳の学校」が2019年の秋ごろから業界内で物議をかもして...
-
コロナ禍で注目される「在宅ワーク」と怪しい副業情報商材 新型コロナウイルスの影響で、仕事や将来に対する不安を抱える人が増え、さらに感染防止の意味でも 「在宅ワーク」に関心を持つ人が増えています 。
-
字幕翻訳スクールがAI字幕翻訳ツールを開発したというニュース 数日前に字幕翻訳スクールがAI字幕翻訳ツールを開発したというニュースが流れ、翻訳者たちの間に衝撃が広がりました。これを受けて翻訳者の堂本秋次さんがYouTubeで 緊急動画 を配信され、それを見たローズ三浦さんの発案...
-
また出てきました。 AIに翻訳を任せれば「英語力不問」で翻訳家になれるという講座です。 実はこの講座は、 2019 年から 2020年 にかけて問題になった講座と同じ販促業者が後ろで糸を引いている講座です。以前問題になった講座については 2020年2月25日火曜日のこち...
-
2018年6月に開講されて大いに物議を醸した「在宅翻訳アカデミー」(浅野正憲氏主宰)を運営していた「株式会社REGOLITH」がまた新たな講座を開きました。
-
2018年頃、今より低単価でちょっとめちゃくちゃな量の仕事をしていた時期があります。3日で8500ワード とか、2日で5300ワード とか。一度無理を聞いたらそれが当たり前になってしまって毎日毎日、朝早くから夜遅くまで仕事していました。
-
業界で今ザワついているあの件について私からも一言。 ちょっと話は横道に逸れるところから入りますが....。 数年前、海外からの依頼でしばらくの間チェッカーの仕事も時々受注することもあったのですが、「え、これって本当に日本人が訳したの?」と思えるほどひどい訳文が送られてく...
-
はじめまして。 フリーランス翻訳者の浅野ユカリと申します。 結婚して子どもが生まれる前は企業内で通訳と翻訳の仕事をしていました。子どもが生まれてからは不定期に実務翻訳の仕事を頂いて、基本的に在宅で仕事をしています。 フリーランスの翻訳者と...
0 件のコメント:
コメントを投稿